●胃の役割はためておくこと
胃の中で食塊は、胃酸によって殺菌されます。同時に、蠕動運動により攪拌(かくはん)され、消化酵素などによって粥(かゆ)のようにされて、十二指腸に少しずつ移送されます。胃から十二指腸への出口には、幽門輪(ゆうもんりん)という括約筋のリングがあって、これが開いたり閉じたりして、胃の中の食塊を少しずつ送り出すように調整しています。この胃の貯留ー排泄の機能は非常に重要で、胃の排泄作用として知られています。
胃は昔、胃酸やペプシンなどによって食物を消化する重要な臓器だと考えられています。しかし近年、胃を切除しても、消化吸収にはほとんど問題がないことがわかりました。ただし、胃を切除すると、消化吸収障害は起こらないけれど、それ以外のいろいろな症状が現れてきます。たとえばダンピング症候群がその例です。胃が食塊を少しずつ、ゆっくりと小腸に送っているからこそ、小腸で時間をかけて十分な消化吸収ができるのです。つまり、胃の最も大切な役割は消化でなく、食物をしばらくとどめておいて、少しずつ小腸へ送り出すことだと考えられます。
●滞胃時間はコントロールされている
食物が十二指腸に送られると、十二指腸にある種々の細胞がそれを感知して、胃の働きを調整します。こうして、食物が胃にとどまる時間(滞胃時間)はコントロールされているのです。
食塊に含まれる酸や栄養素、食塊による十二指腸の伸展などが刺激となります。これらの刺激は腸管壁にある神経叢(しんけいそう)を介して胃や脳に伝わり、消化管ホルモンの分泌を促したり、胃の働きを抑制したりします。たとえば、脂肪が刺激となって、消化管ホルモンの一つであるコレシストキニンが分泌されます。コレシストキニンは、膵臓に作用して消化酵素の分泌を促すと同時に、胃に作用してその動きを抑制し、食塊の輸送をゆっくりとさせます。
胃の動きを抑制する強さは栄養素によって異なっていて、糖質、タンパク質、脂肪の順に強くなります。お粥のように水分が多く糖質が主体のものは腹にもたれず、油こいものは腹もちがよいというのは、ここに理由があります。脂肪の消化吸収には時間がかかるため、ゆっくり送るようにしているのです。
(「よくわかる栄養学の基本としくみ」)
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