●なぜ、「脳を健康に保つ方法」を考えないのか
医学上の問題が生じたときには、医者にかかって手早く治すために、最新のよく効く薬を処方してもらえばいいと思い込んでいる人が多い。この都合のいい筋書きは、薬を処方する際に”病気を第一に考えた”アプローチをとるよう医者を助長してしまう。
しかしこのアプローチには二つの点で非常に恐ろしい瑕疵(かし)がある。まず、注目しているのが「病気」であって、「健康」ではないことだ。次に、処置自体が危険な結果を伴う場合も少なくないことだ。
例をあげよう。米国医師会が発行する信頼のおける「アーカイブス オブ インターナルメディシン」で発表された最近の報告から、閉経後の女性のうち、コレステロールを下げるためにスタチンという薬を処方されている人は、処方されていない人たちに比べて、糖尿病になるリスクが48パーセントほど高いことが明らかになった。この一例は、糖尿病をわずらうとアルツハイマー病にかかるリスクが二倍になるということを考えるとき、さらに重大性を増す。
最近は、生活習慣病が健康に対しておよぼす影響について、一般の人たちの意識が高まっている。「脂肪が少なく心臓に負担のかからない」食事、あるいは「結腸がんを軽減させるためには食物繊維をたくさん食べるように」とのアドバイスはたびたび耳にする。
しかし、脳を健康に保ち、脳疾患にかからない方法についてはわずかな情報しか手に入らないのはなぜだろうか。脳が心という幻のような概念と結びついているせいで、脳は私たちのコントロールがおよばないところに遠ざけられているからだろうか。あるいは、製薬会社がお金をつぎ込んで、生活習慣が脳の健康に強く影響するという考えが広まることを阻止しているからか。
私は35年以上の歳月をかけて脳疾患を研究してきた。公平を期して警告しよう。私は製薬業界に都合のいいことを言うつもりはない。薬に救われた人たちの話より裏切られた人たちの話のほうをはるかにたくさん知っている。
(「いつものパン」があなたを殺す)
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