●「酵素健康法」を裏付ける?タンパク質分解酵素の不思議な働き
断食を実践する際に、非加熱の食品(ローフード・生食)から(酵素)を補給するという健康法が日本で流行しているようです。
酵素は巨大なタンパク質分子ですから、小腸でアミノ酸レベルに分解されて血液中に吸収されます。したがって、血栓溶解剤のような酵素は、口から摂取するのではなく、血液の中にダイレクトに入れないと効果が出ません(点滴か血管カテーテルから直接入れる方法が一般的です)。
血栓溶解剤は、効きすぎると逆に出血という副作用を持つ危険な薬です。血液濃度を一定にコントロールしないといけないので、口から摂取して確実に何%は血液に入れるというものでなければ、効果の測定もできません。
とはいえ、腸から消化されてバラバラになったアミノ酸が再び同じ酵素に合成されることはありません。バラバラになったアミノ酸は、他の細胞の構成成分、ホルモン、神経伝達物質、酵素など様々な用途に使用されるからです。
以上の点をふまえると、酵素補給はあまり有効とは言えません。間欠的断食(1
日1食)ではカロリー制限自体に意味があることが前述した研究で分かっている以上、わざわざ酵素を摂る意味はないことになりますね?
●酵素のまま吸収されることも
ところが、ある種のタンパク質分解酵素については口から摂取しても一部分は消化されないで血液中に入ることが、1960年代から論文報告されています。消化酵素の分解から逃れて、腸のリンパ組織(パエイル板)を覆うM細胞から吸収されて血液の中に入るのではないかと推測されています。
ちなみに赤痢菌、サルモネラなどのバクテリア、ポリオなどのウイルスもM細胞から血液中に入ります。M細胞は、小腸から取り込んだこれらの抗原をリンパ球に橋渡しする役割をしています。
このタンパク質分解酵素の摂取は、消化のための酵素の働きを助けるだけでなく、小腸から分解を免れて血液中に入り、体に何らかのプラス作用を持つことを意味します。実際、動物実験および試験管レベルでは、抗炎、抗血栓、抗ガン作用をもつことも報告されています。
こうした効果をふまえ、主にヨーロッパでタンパク質分解酵素を活用した「全身酵素療法」が行われていますが、残念なことに英語の医学研究論文がほとんどなく(つまりきちんとデザインされた臨床実験がない)、ほとんどは代替医療の一つとして続いているのが現状のようです。
この全身酵素療法、つまり口から酵素を摂取する健康法を数十年遅れで日本の数名の医師や栄養士などが取り上げるようになったのが、最近の酵素健康法の流行の真相でしょう。最近ではアメリカでの代替医療でも取り上げられるようになってきましたから、これに敏感に反応したのかもしれません。
(「間違いだらけの食事健康法」)
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