●薬に頼らずに病気を治す「栄養療法」
風邪をひいたときに飲む風邪薬には、多くの有効成分が含まれている。市販されている風邪薬の有効成分には、必ずといってよいほどアスコルビン酸が含まれている。このアスコルビン酸とはビタミンCのことで、風邪にビタミンCの摂取が有効なことは、科学的な根拠がある事実だ。
それを実証したのは、ノーベル化学賞と平和賞をダブル受賞している、ライナス・ポーリング博士だが、ポーリング博士はさらに、ガンの治療にもビタミンCが効果を上げることを証明している。ガン患者に大量のビタミンCを静脈内投与することによって、生存期間が延びることを臨床で確認して、発表したのである。
ほぼ同じ時期に、やはり栄養に注目して、病気治療に取り組んでいる医師がもう一人いた。カナダの精神科医で生化学の博士号も持つエイブラム・ホッファー博士である。ガン患者の精神面の疾患を診ていたホッファー博士は、患者が訴える幻覚や幻聴の症状が、脳のなかの物質の変化から生じていると考え、試行錯誤を重ね、ナイアシン(ビタミンB3)を中心としたアプローチが有効であることをつきとめた。
その栄養による治療は、精神症状を改善させるばかりでなく、ガンの進行を遅らせ、患者の生存期間を延ばすことも確かめられた。
やがて交流するようになった二人の博士だが、共通していたのはビタミンを中心とする栄養を使った治療が極めて有効だという一点にあった。ポーリング博士はその考え方を体系化してまとめ、「分子整合栄養療法(オーソモレキュラー療法)」と命名して、米国の権威ある科学雑誌「サイエンス」誌上で発表した。
その栄養による療法は、私流に解釈すれば、「体に備わっている栄養を的確な濃度に保つことによって、全身の生体機能を高め、病気を改善する」療法ということになる。つまり、病気は栄養の不足、欠乏から起きていると捉え、不足している栄養を補いながら、体の栄養バランスをもっともいい状態に整えることで、病気を治していこうというものである。
薬と手術を主体とする従来の医学とははっきり一線を画しているこの考え方は、予想通りというべきか、おいそれと医学界に受け入れられることはなかった。二人の博士はともに激烈な反論の嵐にさらされ、活躍の場も次々に失われた。頑迷固陋(がんめいころう)既存の医学界の権威に風穴を開けるのは、容易なことではないということだろう。
しかし、二人の博士がともした栄養療法の火種は、着実に燃あがり、広がりつつある。毎年4月末にカナダで開催されている学会は、2011年で40回を数えるまでになった。世界中から参加する医師や研究者も増え続けている。この流れは今後ますます加速していくはずである。
(「薬がいらない体になる食べ方」)
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