●なぜ腸は野菜を好み、ガン細胞は糖を好むか
腸が頼りにしているのはミトコンドリアエンジンですが、このエンジンには最大の弱点があります。
エネルギーを作り出すときに発生する電子のリーク(漏電)と呼ばれる現象が起こることです。これによって「フリーラジカル」という活性酸素が生じます。この活性酸素は細胞内部のあらゆる物質と見境なく反応してしまい、生命にとって深刻なダメージを与えるのです。特に腸では消化機能や免疫機能の低下が起こります。腸が野菜や果物を必要としているのは、これらの食品の中に含まれているフィトケミカルという抗酸化物質を使うことにより、電子のリーク時に出るフリーラジカルを消すためだと考えられます。
腸は糖をエネルギー源にしていないことは先に述べました。小腸はグルタミン酸を、大腸は単鎖脂肪酸を主なエネルギー源としています。大腸には多種類の腸内細菌がおり、食物繊維などの発酵により生成された単鎖脂肪酸を利用しています。牛や馬などの草食動物のエネルギーはほとんどこの単鎖脂肪酸が使われています。ヒトでも低カロリーで食物繊維の豊富な食生活であれば、同じように単鎖脂肪酸がエネルギー源として使われます。腸が単鎖脂肪酸のもとである野菜や食物繊維を必要とするのはこれが理由です。
ところで、ガン細胞は解糖エンジンでエネルギーを得ています。安保教授は、ガン細胞は先祖返りした細胞で、エネルギー系をミトコンドリアエンジンに変えればガン細胞は増殖できなくなると語っています。ミトコンドリア系のエネルギーをうまく引き出すには、細胞の内部環境を温め、酸素を十分供給することです。ガンにならないようにするには、適度な運動をし、温泉などで身体を温め、深呼吸をし、食べ過ぎないことだと安保教授は語っています。考えてみると、私たちの祖先の細胞は、無酸素と低温の環境で生きてきました。そんな苛酷な環境にあっても、祖先の細胞はさかんに血管を伸ばして栄養をとっています。なるほど、ガン細胞とそっくりです。
それでは、なぜガン細胞は解糖エンジンに頼っているのでしょうか。
先ほどミトコンドリアエンジンから電子のリークが起こり、フリーラジカルが出てくると述べました。フリーラジカルはあらゆる細胞を傷害し、いろいろな病気の原因として悪い影響が主として議論されていますが、身体に必要なこともしています。それはアポトーシス(細胞死)を誘導していることです。
私たちの身体は常に新陳代謝を繰り返し、劣化して不要になった細胞をアポトーシスによって排除しています。このように劣化した細胞を排除しそのあとに新しい細胞に置き換えることによって、私たちは常に一定の機能、つまり恒常性を維持しています。私たちの身体の細胞は、およそ一日あたり数千万から1兆個の細胞がアポトーシスによって消滅して、新しい細胞に生まれかわっています。もし、このアポトーシスの機能がうまくいかないと、劣化し変調をきたした細胞が生き続けて増殖し、結果的にガンの発生につながります。ガン細胞にとって、フリーラジカルによるアポトーシスで自滅すると困ります。だからガン細胞のエネルギー産生は、フリーラジカルを生じない解糖エンジンに頼っているのです。発生したガン細胞がたくさん増殖するためには、低温で酸素の少ない環境のもとで糖が必要になるというのはそのためです。
(「脳はバカ、腸はかしこい」)
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