元マラソンランナー高橋尚子さんのインタビュー。
選手とコーチ、ばっちりハマったパターンですね。
Q:練習が苦痛になったことはないのか?
高橋:走ったからこそ得られる充実感があるので苦痛ではないが、小出監督のメニューは本当にきついので「マジッ?」と思うことはあった。「私、こんなに疲れてるのに、やらせるのかな」と。でも、その日「40km」と言われたら、受け入れてやる。
大学時代に自分でメニューを作らせてもらったりしたので、私は「ああしたい、こうしたい」という変な自我があって、小出監督に見てもらえるようになってからも、それがちょっと強かった。普通は「何言ってるんだ」と言われるだろうが、監督は「いいよ、やってみな」と。しかし、結果が全然伴わない。
それを経験した後は、自分の意思を全部断ち切って、監督の言うことをすべて聞くことにした。「私は人形」と言い聞かせ、「マジッ?」と思うようなメニューでも一切顔に出さず、言われた通りにやる。それを2年間ぐらい続けた。ちょうど97年、98年あたり。バンコクのアジア大会ぐらいまで続けただろうか。
近ごろマラソンレースに出る選手の中には「1度も40km走をやっていません」という人がいて驚くことがあるが、私は40kmの練習を4日間で3本やったことがある。1日目40km、2日目40km、3日目2時間ジョッグ、4日目40kmというメニュー。最後の40kmはさすがに「無理です」という言葉がのどまで出かかったが、監督が「Qちゃん、これをやったら階段を2段飛ばし、3段飛ばしで世界一に近づくな」と言うので、「やらせてください」という言葉にすり替わった。
小出監督は、そのへんのさじ加減がものすごくうまい。そうやって割り切ってやると、自分でも無理だと思うようなことが意外とできたりする。
毎日そうやって与えられたメニューをこなしていたら、2回目のマラソンの名古屋国際が「2時間25分の日本記録」という目標になっていた。初マラソンが2時間31分32秒なので「無理」と思ったが、そこも無になろうと決めて毎日の練習をこなしたら、本当に2時間25分48秒の日本記録(当時)が出た。
(月刊陸上競技)
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