●肉食でも病気が少なかったイヌイット
いい油の代表であるEPA(魚油に多く含まれる)の働きとしてよく知られるのが、血液の血小板を凝集させにくくするというものだ。つまり、血液がサラサラになってかたまりにくく、血栓ができにくいのである。血管に余計なものがこびりつかないわけだから、心筋梗塞や脳梗塞といった、血管が詰まることによって起こる病気にもかかりにくい。もちろん、炎症抑制効果もある。
EPAの効果を明らかにしたデータがある。これはイヌイット(グリーンランド先住民)とデンマーク人の病気の発症率と食事(栄養)内容を比較したものだ。両者を比較したのは、地域的にほぼ同経緯で生活環境に差がないからである。
病気の発症率はイヌイットのほうがはるかに低い。心筋梗塞、乾癬、気管支ぜんそく、糖尿病では大きな差が生まれている。唯一デンマーク人に比べてイヌイットの発症率が高いのは脳出血だが、これは血液がサラサラなため、出血しやすいのではないかと考えられる。
栄養の面で見ると、両者とも摂取カロリー中の脂質の比率が高い。イヌイットが39%、デンマーク人は42%で、どちらも約40%を油が占めているのだ。たんぱく質の同じ比率では、イヌイット23%、デンマーク人11%とかなりの差がある。
これは、より自然に近い生活のイヌイット人は、生産できない穀物はとらず、シロクマやアザラシの肉を主体にした食生活をしていたからだ。つまり、動物性たんぱく質をふんだんにとっていたわけだが、心臓の疾患による死亡率はデンマーク人の約7分の1。この事実は「肉は食べないほうがいい」という、誤った常識を見事に覆している。
もっとも顕著な違いが見られるのは、血液に含まれている油の割合である。イヌイットでは、炎症をつくるアラキドン酸が0.8%と圧倒的に低いのに対して、デンマーク人のほうは12.7%と高い。一方、炎症を抑えるEPAの割合はイヌイットが26.5%、デンマーク人0.2%とこちらも決定的に違っている。
この結果を先の病気のデータと照らし合わせると、とっている油の違いは、炎症を起こす、起こさないというだけではなく、ガンを含めたほとんどあらゆる病気の発症に大きな影響を与えていることがわかる。
(「薬がいらない体になる食べ方」)
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