●たんぱく質を大量に消費するガン細胞
ガンはある日突然体に巣くうものではない。”発生”と”発症”は違い、発生は日々おこなわれている。一日に数千個のガン細胞が発生していて、それが発症するのは、細胞の塊が1~2cmの大きさに成長するには、なんと10億個ものガン細胞ができているということになる。
私たちの体ではつねにガン細胞が発生しているが、目に見えることはないし、大きくなってしまうまでは痛みも感じないから、それを意識することなく日常生活を送っているわけだ。
一方で、私たちの体には日々発生しているガン細胞を消し去ろうとするシステムが備わっている。それが”免疫”だ。
日々生じるガン細胞に対して免疫が勝っているときには、ガン細胞は塊をつくらず、ガンが発症することはない。ひとたび免疫をくぐり抜け、多くのガン細胞が塊をつくり増大してくると、検査で見つかったり症状を自覚する。
ガン細胞は、まわりの環境を無視して分裂を繰り返し、ガン細胞の塊である腫瘍を増大させ続ける。このときの材料になるのがたんぱく質だ。以前は食事から吸収されたたんぱく質がガンの腫瘍の材料になると考えられていたため、たんぱく質を控える食事指導がおこなわれてきた。ところがガン細胞は、食事の内容にかかわらず、血液中のたんぱく質から自らの増大に必要なたんぱく質を奪い取ることがわかってきた。
このときターゲットになる血液中のたんぱく質は、アルブミンとヘモグロビンが中心になる。アルブミンは、これまで何度も紹介してきた重要なたんぱく質である。ガン細胞によってアルブミンが奪われると、体は血液中のアルブミンを保とうとし、自分の筋肉を材料にアルブミンを供給する。末期ガンの患者さんの手足の筋肉が細くなり、頬がこけてしまうのはこのためだ。
また、ガンの患者さんは、出血もないのに貧血が進行する。これはガンの腫瘍が自らの増大のためにヘモグロビンを材料にするためで、通常の貧血のように鉄が不足することが原因ではない。ガン細胞にとって、酸素が少ないほうが自分に適した環境であり、酸素を運搬するヘモグロビンが低くなることは好都合になる。だから、ガンの患者さんの貧血は積極的に改善しなくてはならないのだ。
さらに、ガン細胞は分裂などの活動のエネルギーとして、血液中のブドウ糖を利用している。活発な細胞分裂を繰り返し、腫瘍を大きくさせるために、ガン細胞は正常細胞の6倍ものブドウ糖を取り込む。ガン細胞に大量のブドウ糖を使われてしまうと、正常細胞に必要なブドウ糖が足りなくなってしまう。そのため、糖に変わることができるアミノ酸を材料に、肝臓でブドウ糖をつくる過程が促進される。このとき利用されるアミノ酸は筋肉中に大量に存在するため、ガン細胞の活動が活発になると、先ほどのアルブミンの供給のために筋肉が消費されることと相まって、筋肉は急速に消費され、細くなっていくのである。
しかしガンの患者さんには、肉や卵などの動物性タンパクを控えろとか、玄米採食がよいといった食事指導がおこなわれている。これらの食事方法に共通するのは、糖質が多く、たんぱく質が少ないというバランスの悪さだ。血液中にあるたんぱく質を無制限に利用し、正常細胞の6倍もブドウ糖を好むガン細胞と闘うには、こうした食事方法がよい方法ではないことを理解する必要がある。
ここで少し、基本に立ち返っておこう。私たちは食事としてたんぱく質をとる。それが消化管に吸収されて肝臓に運ばれ、そこで分子レベルで働くたんぱく質などの必要栄養素をつくり上げていき、血液中に放出されていく。
この段階ではすでに、由来が動物性か植物性かといった区別はない。アルブミンは、アルブミンたんぱくとして血液に流れていくから、植物性がよくて動物性を控えたほうがいいという理論は成り立たない。
また、アルブミンが肝臓でつくられる過程では多くの栄養素が必要になるが、メチオニンというアミノ酸は必須。このメチオニンの含有量が、実は肉などの動物性たんぱく質に多く、大豆などの植物性たんぱく質には少ないのだ。この観点からも肉類を控える食事指導には、大いに疑問の残るところだ。
ガン細胞の勢力拡大を阻止するうえでも、すでにガン治療をおこなっている場合でも、血液中のアルブミン濃度が重要になってくる。治療受けている人は特に、アルブミン合成のためにビタミンB群が不足する傾向にある。毎日たんぱく質を摂取するのは当然だが、それ以外に必要な栄養素の摂取も必須と考えていただきたい。
(「薬がいらない体になる食べ方」)
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