●子どもが栄養不良でも母は肥満
アメリカのサイエンスライターであるゲーリー・トーベスはこの点について、著書「ヒトはなぜ太るのか?そして、どうすればいいか」の中で、「物理学ではなく、生理学の問題である」と断言しました。その説明として、開発途上国の医療状況を調査した小児科医ベンジャミン・カバレロの論文を引いています。食事と肥満の関係についての興味深い話ですので、少し引用してみましょう。カバレロ医師は、ブラジル・サンパウロのスラム街にある診療所を訪れた際に目にした様子を、次のように表現しました。
【ー慢性低栄養の典型的な症状を示す、やせて発育を阻害された幼い子どもを連れた母親たちであふれていた。(中略)驚くかもしれないが、これら栄養不良の幼児を抱く母親たち自身の多くが肥満なのである。】
ブラジルの貧困層は所得も低く、日々の食料の入手にも困っている人たちです。高カロリーの食品はおろか、おなかいっぱいになるほどの食事量も望むべくもないでしょう。それなのに、母親たちの多くがおしなべて肥満であるという事実は、カロリーと肥満との間には何らの相関関係がないことを端的に示唆しています。
サンパウロのスラム街の母親たちは、自分だけが過食していながら、子どもに食事を与えなかったのでしょうか?いえ、母親の本能として、そんなことはあり得ません。だとしたら、痩せ細った子どもをもつ母親たちはなぜ太ったのでしょうか?カロリーという概念が正しければ、そんなことは絶対に起こり得ないはずなのに…。
カロリーという概念(トーペスいわく、「入るカロリー/出るカロリー理論」)をヒトに当てはめると、こうした矛盾がいくつも出てきます。やはり、食品を燃やしたときの物理学的熱量と、ヒトが食べたとき・活動したときの生理学的熱量を同等だとする理屈は、いささか強引としか思えません。
(「日本人だからこそ「ご飯」を食べるな)
コメントをお書きください