それにしても、脳はなぜこんなに糖を多量に必要としているのでしょうか。
まず第一には、脳には糖の備蓄能力がとても少ないので、血中の糖を頼りにしていることが考えられます。
次に、糖の取り込み装置の問題があります。脳は通常ブドウ糖を、筋肉は脂肪をエネルギー源にしています。しかし脳には血液脳関門があるので、ブドウ糖は通しますが脂肪酸は通しません。したがって、糖を効率的にエネルギーにするため、細胞内に特殊な糖の取り込み装置が存在しているのです。これを糖輸送体(GLUT…グルコーストランスポーター)といいます。
骨格筋や心筋はGLUT4というトランスポーターを使います。これは通常は細胞内に隠れていますが、運動時や糖質を摂取して血糖値が上昇しインシュリンが追加分泌されたとき、この装置が働いて糖を細胞表面に運びエネルギーに代えます。運動していないときや血糖値が上昇していないときは、GLUT4は細胞内に隠れているので、筋肉は糖を超微量しか取り込むことができません。すなわち主要エネルギーは脂肪となるのです。
一方、脳はGLUT1というトランスポーターを使います。これは脳細胞表面に常に存在していて、いつでも糖を取り込むことができます。脳がとっさな判断を求めたり、ストレスや素早い反射のときに、糖をエネルギーとしていつでも使うことができるのです。ブドウ糖は血糖値を100mg/dlとすると必要量の約10倍、酸素はヘモグロビン濃度を15g/dlとすると必要量の約2~2.5倍が供給されており、わずかな血流の低下があったとしても直ちに供給不足になることはありません。ちょっとした脳への血流低下で、糖や酸素のエネルギー不足となって意識を失っていては命取りです。そのため、脳は考えられる以上の糖と酸素の予備供給能力を持ちあわせているのです。
(「脳はバカ、腸はかしこい」)
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